研究概要
「金属錯体」は有機分子の設計の自由さと機能、金属イオンの幾何構造と物性を合わせ持つ楽しい物質群です。この金属錯体をベースに、フッ素の分子認識特性(正の四重極モーメントの発現)、弱い分子間相互作用を操作する超分子化学的および結晶工学的手法を組み合わせることから、ダイナミックに構造を変えて小分子を捕捉する「動き、考える結晶」の作成を目指します。
フッ素が効率良く分子を認識し、金属イオンが分子の捕捉を色で教えてくれる新しい固体材料の開発から、環境保全及び低炭素社会の実現に貢献するとともに、ものづくりを担う化学のつくる責任つかう責任(SDGs12)を基礎から支えます。
「動的結晶場の作成とゲスト包接」
Chem. Eur. J., 2020, 26, 5051-5060; CrystEngComm, 2014, 16, 8805-8817; CrystEngComm, 2007, 9, 215-217.
フッ素を置換した銅錯体が様々なベンゼン誘導体を包接することを明らかにしました。フッ素が多いほど包接数は増加し、熱安定性も向上します。またベンゼンやトルエン蒸気を整数比で繰り返し取り込むことを見出しました。フッ素置換銅錯体がベンゼンを吸い込むと、茶色から美しい青色の結晶へと変化します。
「フッ素置換金属錯体のガス吸着」
Dalton Trans., 2019, 48, 9062-9066; CrystEngComm, 2017, 19, 6263-6266.
フッ素を置換した金属錯体が、結晶内部に空間を持たない分子性結晶でありながら、さまざまな小分子ガスを吸着することを明らかにしました。特に、CO2やO2などの無極性のガス分子が、用いた金属の種類に依存して包接の仕方が変わる興味深い現象が見られ、今後のガス分離や貯蔵への応用が期待されます。
「擬多形結晶の動的構造変化」
Cryst Growth Des., 2014, 14, 3169-3173.
フッ素を置換したパラジウム錯体は3分子のメシチレンを取り込んだ針状結晶を与えます。これに振動を与えると2分子のメシチレンをもつ粒状結晶に一義的に変化しました。学生さんが実験中に見つけたユニークな現象です。この結晶からそれぞれメシチレンを取り出した後、もう一度メシチレンを加えると、元の数と同じ量が入るメモリー効果も観測されました。
「金属錯体の交差集合」
Angew. Chem. Int. Ed., 2007, 46, 7617-7620.
フッ素を置換した金属錯体(左図赤色)と置換していない金属錯体(左図緑色)を溶かして混ぜると、瞬時に針状結晶が生成します。とても細い結晶ですが、学生さんの100回以上に及ぶ再結晶化から、錯体同士が交互に並んでいる構造であることが明らかになりました。中心の金属イオンを変えても交互に並びます。錯体平面がちょうど1ナノメートル四方、アレーン・フルオロアレーン相互作用による異種金属イオン集積の最初の報告例になります。
「分子性結晶の構造決定」
無機:CrystEngComm, 2020, 22, 3090-3094; Polyhedron, 2020, 192, 114825.
有機:Acta Cryst., 2019, C75, 265-270; Crystals, 2019, 9, 175, 1-12.
分子性結晶のダイナミックな構造変化や吸着現象、物理的性質に着目し、ディスクリートな芳香属性化合物の結晶化と機能化を行なっています。結晶構造と分子間相互作用をDFT計算等と関連づけ理解することを目指します。